競売が実施され自宅が落札された後、強制退去処分までのリミットは約二ヶ月ほどであることを以前お話ししました。
では、当日の強制的な退去処分の手続きは実際どのように行われるのでしょうか。
仮に退去に応じず居座ろうとした場合どうなるのか知りたいという人も多いようですので、本章では強制退去手続き当日の動きや、仮に居座ろうとした場合にどうなるのか見ていきます。
強制退去処分が実施される1か月ほど前には、裁判所の執行官が債務者宅を訪れて自宅明け渡しの催告がなされます。
実はこの催告を行う日には執行官の他に数名の同行者を伴います。
同行者は民間の業者で、1か月後に強制退去処分を行うに際して必要になる各種の見積もりを行います。
必要な人員の手配やどのような機材の準備が必要かなどを見定めるために同行するのですが、例えばカギの業者であれば今ついているカギを交換するのに必要な器具や発生する料金の算定などを行います。
宅内にある家具などの運び出しを担う業者は、荷物の量からトラックの台数や必要人員、料金の算定をします。
このように、強制退去が実施される以前から、すでに準備が始まっているのです。
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強制退去処分が実行される当日には、裁判所の執行官と共に前項で見た各業者が再び訪れ、鍵の交換や荷物の運び出しを進めます。
これを嫌がってカギをかけて閉じこもりを敢行したり、居留守を使ったとしてもカギを壊して物件に立ち入ります。
すでに旧所有者は物件の所有権を失っているので、法律的にも抵抗する術はありません。
運び出された家具や荷物は一旦、裁判所が管理する倉庫に保管され、約1か月以内に債務者が引き取りにいかなければ売却または廃棄処分されることになります。
荷物の運び出しやカギの交換などにかかった費用については一旦買受け人が負担しますが、買受け人から債務者に費用請求がされるので最終的には債務者負担となります。
これらの費用として数十万円はかかってくるので、ただでさえ余裕のない債務者にさらに負担がのしかかります。
あくまで転居を拒み居座ろうとしてもその試みが功を奏することは無いでしょう。
まず、法律的に居座る権利がないので、状態としては不法占拠が続いている状況です。
カギは強制的に開錠されて自宅内に侵入されますし、あくまで不法占拠を解かない姿勢であれば警察を呼ばれて逮捕される可能性もあります。
この場合、刑事的な責任を負う可能性もありますから、このような考えは絶対に持たないでください。
この点、実はかなり以前は競売後に居座ることによって立ち退き料の支払いを迫る反社会勢力などがいたのも事実です。
昔のルールでは、競売後にも数人の仲間同士が手を組むことで法律上も合法的に長期間物件を占有する術があったため、「明け渡してほしければ立ち退き料を払え」などと要求する占有屋と呼ばれる輩がいたのです。
これが許されてしまうと競売物件を安心して買うことができず、競売制度の信用性が崩れてしまうので、その後法改正がなされ競売後の居座りができないようになっています。
結局のところ、現在は競売後の居座りはできないということです。
一昔前は、競売事案においても早期の立ち退きを条件に引っ越し代として立退料をもらえることもありました。
しかし、近年は競売の買受け人が立ち退き料を支払うことはほぼありません。
買受け人は物件の代金以外にも様々な諸費用を支弁しなければならないので、立ち退き料を支払うような余裕はありません。
そもそも債務者の事情など買受け人には全く関係ないので、引っ越しの時期や引っ越し費用にまで気を遣ってくれることは期待できません。
何か事情があってどうしても早期退去が望まれるような事案では例外的に交渉が入る可能性もありますが、基本的には競売で退去費用を出してもらえることは無いと思ってください。
この点、任意売却であればケースによって引っ越し費用を確保できる可能性は十分あるので、競売に進む前に任意売却の準備を整えるのが絶対にお勧めです。
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本章では競売落札後の強制退去処分の手続きについて、退去日当日の動きや流れを見てきました。
退去処分手続きは明け渡し催告の時点ですでに準備が進められ、当日はそれに従って粛々と実務が実施されていきます。
居座ろうとしてもカギを壊されて侵入され、荷物の運び出しなどの費用も後から請求されることになります。
居座ろうとしてもいいことは無いので、競売が実施されてしまったのであれば抵抗せず、自主的に転居の準備を始めるのが無難です。
その後の人生を悲観して居座りを考えても自分に不利になるだけですので、あらたな人生を歩むためにも新居探しに注力しましょう。