住宅ローンは数十年の長期にわたり支払いを続けていくことになるので、その間に病気やケガに見舞われるという事態も起こり得ます。
わが国にはそのような時に利用できる公的な補償制度がいくつかあるのですが、制度的に縦割りとなっているので網羅的に理解するのが難しくなっています。
この回では病気やケガといった事態に見舞われた時に利用できる制度や保険について、横断的に概略を捉えていきますので、必要な時に検討できるようにしておきましょう。
まずは公的に用意されている各種の補償制度を見ていきます。
勤め人の方であれば、病気やケガが業務に起因するものである場合、あるいは通勤途中によるものである場合には労災から一定の給付がなされます。
正確な算定は別途必要ですが、概ね給料の80%程度の給付を受けられるので、対象となる場合には休業中の収入枯渇を避け、ローンの支払い原資を確保することができます。
こちらも勤め人の方が対象ですが、健康保険には傷病手当金の仕組みがあり、業務に起因するか否かに関わらず、要件を満たせば病気等で長期の休業を余儀なくされた場合に一定の給付がなされます。
正確な算定は別に必要ですが、概ね給料の三分の二程度が最長1年と6か月支払われます。
これだけではローンの支払が苦しくなるとしても、家族の収入を合わせるなどして対応したり、金融機関にリスケジュール等を申し込んで調整を図ることもできます。
病気やけがによって生活や仕事に支障が出た場合、年金制度からは一定の条件を満たした場合に障害基礎年金や障害厚生年金が支給されます。
障害年金の制度は複雑なためここでは詳述を避けますが、参考までに障害等級1級と認定された場合の障害基礎年金は、令和3年4月分からは976,125円、障害等級2級の認定であれば780,900円です。
これに加え、加算対象になる子どもがいる場合、子ども2人までは1人につき224,700円、3人目以降は1人につき74,900円が加算されます。
こうした補償制度は自分で知っておかないとチャンスを逃してしまう可能性があるので、いざという時に利用できるように頭に入れておきたいものです。
次に民間の保険で住宅ローンに関係するものを見ていきます。
まず、ローン利用時に加入することができる団体信用生命保険(団信)があります。しかし、この保証が適用されるのは命を落とすか、それに等しいほどの高度な障害を負った場合だけであり、実際問題そのような事態となることは稀です。
り患しやすいガンや生活習慣病による収入減に備えるには、住宅ローン疾病保障保険を利用するのも手です。
各種のガンの他、急性心筋梗塞や脳卒中、糖尿病など多くの方がり患しやすい病気をカバーしてくれるので、病気による収入減に対応することができます。
保険事故の対象になれば一定の保険金が支払われますが、実際の保険商品によって保険の内容は変わるので、当保険を扱う金融機関で相談してみましょう。
もう一つ、収入の減少に備えられる保険に住宅ローン返済支援保険があります。
病気やケガにより30日を超えて療養が必要になった場合に、住宅ローンの返済について一定額が補填されます。
こちらも個別の保険商品によって内容が異なるので、興味がある方は取り扱う金融機関で相談してみましょう。
以上、住宅ローンに関する保険について見てきましたが、すでにローンの支払いが苦しくなっている場合は急いで対応しないと自宅は競売にかけられてしまいます。
次の項では競売を避ける方法を見ていきます。
すでに住宅ローンの支払いに支障が出そうな状態で、上で見てきた補償や保険からの資金確保が望めない場合、早めに任意売却を検討する必要があります。
任意売却はローン債権者の合意を取り、特別に自宅にかけられた抵当権を解除してもらい、市場での売却を目指すものです。
競売では市場価格の6割程度まで値を下げてしまうこともよくあり、債務者の方にとっては自宅を取り上げられてしまう他に金銭的なダメージが生じます。
任意売却は市場原理の下で売却に臨むことができ、ほぼ市場価格と同程度の金額で売ることができるので、より多くのローンを返済できます。
後の生活にできるだけのゆとりを持たせることができ、ケースによっては引っ越し代を融通してもらえることもあるなど、競売に比べたメリットが大きいので、ぜひ検討してください。
ただし、任意売却を成功させるにはある程度の期間が必要ですので、早めに専門機関に相談する必要があります。
任意売却について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
この回では病気やケガに見舞われた場合に利用できる補償制度や保険などを横断的に見てきました。
個別の補償制度や保険の詳しい内容まで熟知する必要はありませんが、「こういう制度があるんだ」と知っておけばいざという時に必要な行動を取れます。
すでにローンの支払いが苦しくなっている場合は任意売却ができないかどうかを検討すると良いでしょう。